太古、人間のなかで人知を超えた才を持つ者たちがいた。かれらは普通の人間としてみなされず危険視されていた。
やがて人間から避けるように霊山に移り住むと、自分たちの力の答えを探すため瞑想する日々となった。
霊山で霊気を吸収したかれらは千年を超える長寿を得て、人ならざる術を身につけたのである。
だがかれらが最も欲していたのは、かつての普通の生活だった。いわば、迫害された身である。人間たちと暮らしたいという思いと同時に、人間に対する憎しみも、
「日増しにあっただろうな」
かれらはもうひとつの人間界を作るため、異次元への扉を開く。そしてなにもない山岳地帯が目の前にあった。かれらの心を映したような、そんな虚無の世界に都市を築いた。
それが仙界である。
いま、神界の王である『玉皇大帝(ぎょくこうたいてい)』は、仙界と、いわば同盟を結んでいる。
大帝は自分の妻を仙界に送りこみ、神界との通信役とした。だがこれは、大帝が仙界の力を恐れたための監視役といえよう。仙界もそれは理解している。
仙人は、普通の人間や神といったような、わかりやすい存在ではない。
人間から派生したイレギュラーで、かつ、神から見ても得体の知れない存在。その力のすべてを神界も把握できていない。おそらく、
「仙人たち自身もな」
大帝の妻が女仙を統率する西王母。いっぽう、男仙を統率するのは東王父という。
ふたりとも、仙界最強といわれる八人の男仙と、七人の女仙を抱え、日々頭を痛めているとは有名な話である。
茜舞は、酒呑童子、円化とともに宙を飛びながら仙界に向かうなかで、これらをはじめて聞いた。
「どっちが強いんですか?」
円化が聞いた。
「さてな。八仙は『暗八仙』という法器を持っている。かれらの長年の修行のすべてが傾けられた仙界を誇る代物だ。いっぽうの七仙姑は、神界から授かった護身霊石を持っている」
「神界から?」
七仙姑の末っ子は、人間たちがいう織姫である。彼女は、
「大帝の娘だ。ゆえに仙人ではないが。嫁に出したかったのかもな。ともかく、大帝が娘を守るために、七仙姑に託したものだろう。その各色の宝石は神界の至宝。雷光をも封じる力があるらしい。
暗八仙とあわされば攻防一体、まさに無敵」
円化の顔にほころびが見えた。
「だが、かれらにはちょっと問題があってな」
「えー! なにが問題なのです?」
「すぐにわかる」
三人は霧に包まれた中国の霊峰にたどりつく。酒呑童子が、突き立った山頂と山頂のあいだでなにかを口ずさむと空間が歪む。
「さあ、ここが入口だ。騒がしい一日になるぞ」
仙界の酒は久しぶりだ、とばかりに酒呑童子は嬉々とした表情で唇をなめた。
このような状況で師匠がこんな調子でだいじょうぶかと茜舞と円化は顔を見合わせる。
酒呑童子を先頭に、三人は仙界へ足を踏み入れた。